厚生労働省指定 基幹型臨床研修病院

皮膚科

2.食物アレルギーとアトピー性皮膚炎

尼崎医療生協病院皮膚科  玉置昭治

1)食物アレルギーとは

 食物アレルギーはある種の食物を食べてアレルギーを起すことをいいます。良く知られている例としては、蕎麦を食べて蕁麻疹がでる、痒くなる、嘔吐、下痢などを起し、ひどい場合はショックを起すなどです。鯖や鯵などの背の青い魚を食べて蕁麻疹が出ることも良く知られています。
 乳幼児期では卵や牛乳、小麦による蕁麻疹や潮紅を起すことがあることも良く知られるようになりました。
 このように原因が何であれ、食物を食べてアレルギー機序で病気が起こってくるものを食物アレルギーといいます。これは疾患名よりは起こり方、機序を説明する言葉です。
 一方、アトピー性皮膚炎は「かゆみを伴い繰り返す、典型的な分布を示す湿疹症状でアレルギー素因を持つ者の場合が多い」とされます。アレルギーの素因がありますから、喘息やアレルギー性鼻炎・花粉症とともに蕁麻疹の合併が多いといえます。

 

2)食物アレルギーの皮膚症状は

 小児のアトピー性皮膚炎の原因は食物アレルギーであるといわれます。本当にそうでしょうか。食物アレルギーが原因とされているアトピー性皮膚炎の患児に原因とされている食物を医者の目の前で食べさせると7割の人は何の反応も起こりませんでした。既にアレルギーはなくなっていたのか、元々症状は出なかったかどちらかでしょう。3割の方は1時間以内に蕁麻疹が出てきました。しかし、アトピー性皮膚炎が悪化したり、再燃したりはありませんでした。

  症例数 陽性例 誘発された皮疹 アトピーの悪化
172蕁麻疹なし
牛乳73蕁麻疹なし
大豆30 なし
小麦22蕁麻疹なし

第8回日本アレルギー学会春季臨床大会(1996年横浜)で発表

 このように食物アレルギーという語で示される皮膚症状として現在までに報告されているのは蕁麻疹、ないしは全身の潮紅です。アトピー性皮膚炎のような湿疹反応は、掻き破るということがなければ起こりません。

 

3)アトピー性皮膚炎の原因は本当に食物アレルギーか?

 なぜアトピー性皮膚炎の原因は食物アレルギーという間違いが起こったのでしょうか。

 まずアトピー性皮膚炎と蕁麻疹の違いを見てみましょう。このように症状、発症機序、治療法まで異なる疾患がいっしょくたにされて良いわけがありません。

アトピー性皮膚炎と蕁麻疹の異同
  アトピー性皮膚炎 蕁麻疹
皮膚症状 湿疹じんましん
発症機序 確定されていないT型アレルギー IgE
原因の検査法 じんましんの検査を代用T型アレルギー IgE
血中IgE 高値の場合が多い低値のことが多い
治療法 スキンケア、生活習慣改善抗ヒスタミン剤

 アトピー性皮膚炎では血液中のIgEが高いことが多いということは良く知られています。
IgEはT型アレルギーによる蕁麻疹を起すキーマンです。

IgE

 接触皮膚炎(湿疹)の起こり方:ハプテン(金属や薬など体の中のキャリアー蛋白と結合して抗原性を持つもの)が表皮のランゲルハンス細胞に捕捉されて所属リンパ節まで流れていきます。そこで感作を受け感作リンパ球ができます。そうしてもう一度ハプテンが侵入してきたときにランゲルハンス細胞が捕捉して、感作リンパ球に情報を渡して表皮の中で反応が進行します。皮膚の浅い部分で反応が進みますからジクジクしたり、水疱ができたりします。

 そして蕁麻疹もアトピー性皮炎も皮膚をターゲットとしたアレルギー反応です。蕁麻疹の起こり方を説明してアトピー性皮膚炎もそれに準ずるとした家庭の医学書があります。それは、小児科医が皮膚のことが良く分かっていないから起こった間違いといえます。

アレルギー反応

 蕁麻疹の起こり方:形質細胞からIgE抗体が作られて、アレルギーを増幅する肥満細胞につきます。そこに抗原が入ってきてIgEと反応すると肥満細胞からヒスタミンなどの脱顆粒が起こります。ヒスタミンやSRS−Aが真皮の血管に作用して血管拡張、血漿成分の血管外漏出が起こります。これが蕁麻疹です。反応の主な場所は真皮です。表皮には反応が起こりませんから跡形なしに治ります。

 

4)食事制限が何故受け入れられたか

 食事制限〔以下除去食〕がどうして受け入れられたのでしょうか。アトピー性皮膚炎は元々寛解増悪を繰り返す、と定義されるように自然に良くなったり悪くなったりする疾患です。自然寛解を「RAST陽性→除去食→良くなった」というように除去食の効果として間違って宣伝されたためです。皮膚科のように「RAST陽性→除去食はしなくても→自然寛解する」というのはいかにも説得力に乏しかったといえます。

 最近マウスの実験ですが非常に早期(生後二週間)に牛乳を飲ませると、牛乳に対するIgE抗体が産製されアトピー性皮膚炎のような湿疹反応が出るという報告が出されました(J Allergy Clin Immunol 2001;107:673-702)。しかし、その後のフォローアップ記事は無いように思います。現在の到達点は蕁麻疹をいくら繰り返しても湿疹にはならないで、逆に耐性(慣れてしまうことです)が出来て、症状が消えてしまうことが知られています。

 

5)食物アレルギーは増加している

 食物アレルギーがアトピー性皮膚炎の原因というキャンペーンは間違いですが、近年食物アレルギーが増加しているのは間違いありません。そしてそれは蕁麻疹型の反応ですから、ひどい例になると呼吸困難、ショックに陥ることもあります。乳幼児期であれば卵白、牛乳、小麦粉、年長児になるとピーナッツ、蕎麦、花粉症がらみのりんご、キウイ、メロンなどがあげられます。食物アレルギーの増加の原因ははっきりされていませんが、ディーデルの排気ガスや添加物、ポストハーベストの問題、ストレスの増加などが考えられています。そのためアレルギーのひどいと考えられる乳児では1才まで卵をあげないほうが安全といえます。